┃パワーリフティング種目からの発展
「重い重量を持ち上げる」。そのパワーを競う競技パワーリフティング。ウエイトリフティングと混同してしまいがちですが両者は全く違った競技です。ウエイトリフティングはオリンピック種目でもあるので、知っている人・見たことがある人も多いのではないでしょうか。重りをつけたバーベルを頭上の高さまで持ち上げ、その重さを競う競技です。日本では重量挙げともよばれています。それに対してパワーリフティングは重いものを持ち上げること競うという点では共通していますが、競技の内容が異なります。
パワーリフティングでは、
■ベンチプレス
■スクワット
■デッドリフト
という3つの種目から構成されていて、その合計の重さを競い合うという競技です。オリンピック種目には至っていないものの、パラリンピックでは正式な種目に採用されていて、パワーリフティングは世界レベルで競技が行われています。オリンピックの正式種目も目指しています。そのパワーリフティングの3つの種目をそのまま筋トレ種目として応用したものがビッグ3という筋トレ方法となります。「筋トレのやり方に迷うのであれば、とりあえずビッグ3から!」と推奨するトレーニーは上級者レベルにも多く、筋トレ業界では「王道の3種目」という通称をもちます。ビッグ3という名前の由来はここにも感じることができます。迷うならとりあえずビッグ3といわれる所以。そこにある魅力はなんなのか。今回はビッグ3について詳しく掘り下げてみていきます。
http://www.jpa-powerlifting.or.jp 日本パワーリフティング協会
┃ビッグ3がターゲットとしているのは大きな筋肉
ビッグ3がターゲットとしているメインの筋肉は大きな筋肉群です。
筋トレにおいて「たったひとつの筋肉だけを使う」ということは、ほぼ不可能で、動く限りさまざまな筋肉がはたらきます。大きな筋肉を使う動作の多くには小さな筋肉たちも動作に関わるため、大きな筋肉(大筋群)をターゲットにするというのは筋トレメニューを考えるうえで大きなポイントになります。なぜ大きな筋肉を鍛えることが筋トレにおいて重要なポイントになるのか、この点については後ほど詳しくご紹介します。まずビッグ3がメインに刺激する筋肉をみてみると
■ベンチプレス:大胸筋を中心に上半身を刺激
■スクワット:太もも、お尻を中心に下半身を刺激
■デッドリフト:背骨の筋肉を中心に背中の筋肉を刺激
となります。どれもからだのなかでは大きな部類にはいる筋肉で、大きな筋肉とは筋肉の繊維、あるいは筋肉全体としての面積が大きいということを意味しています。
┃刺激される代表的な筋肉を知ることが大切
先ほどビッグ3において鍛えられる筋肉についてざっくりとみてみました。ここでは各3つの種目において刺激される筋肉について解剖・生理学的な立場からしっかりと確認しておきます。
トレーニングする上で、筋肉の解剖と生理(筋肉のつくりと筋肉のうごき方)について知っておくことは効率を高め、効果を上げるために欠かすことができない要素です。トレーニングには「トレーニングの大原則」というものがあります。この原則については「ビッグ3で効果を得るためのポイント」の項目で詳しく取り上げていますが、その原則のひとつとして「意識性の原則」というものがあります。トレーニングは闇雲に行っていても十分な効果が得られにくいものです。筋トレしているときに使っている筋肉を意識する、つまり筋肉のうごきなどをイメージしながら取り組むということが大事です。筋肉をうごかしているのは神経から伝わる電気刺激です。筋肉を活動させると電気が発せられます。使う筋肉を意識するとしないのでは、筋肉から発せられる電気量に差が生じることが医学的にもわかっています。つまり、「筋肉から出される電気量が多い=活発に活動している」ということです。トレーニングする筋肉を意識すると筋肉からの放電量が増加します。30%の負荷量で筋肉を意識してトレーニングを行うと、50%の負荷量でトレーニングしたのと同じ効果がえられるという報告もあります。意識するというのは大切なことといえるのです。
http://www.bookhousehd.com/pdffile/msm84.pdf |使う筋を意識した場合 としない場合とでみたところ、「意識あり」 のほうが筋放電量が多い。|
http://www.bookhousehd.com/pdffile/msm84.pdf |30 %負荷で行うトレーニングでも目的 とする筋を確実に動かすよう意識を徹底さ せることで 50 %の負荷と同程度の筋力増 強効果が期待できる。|
http://www.bookhousehd.com/pdffile/msm84.pdf Sportsmedicine 2006 NO.84・低負荷・無負荷での 筋力トレーニング「意識」がもたらす効果について
┃ビッグ3で刺激される代表的な筋肉
ビッグ3で鍛えられる代表的な筋肉をみていきます。筋肉の場所とうごきを確認するうえで参考になる動画を合わせて掲載します。
▼ベンチプレスでは胸と腕の筋肉がメイン
ベンチプレスは筋トレの種目のなかでもトップクラスに君臨する有名な筋トレです。仰向けの状態でバーベルを上げ下げするという動作によって胸・腕を中心とした筋肉を鍛えていきます。メインとなるのは大胸筋(だいきょうきん)と上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)という筋肉です。
■大胸筋|Pectoralis major
大胸筋は鎖骨、胸の中心にある骨、肋骨からはじまって最終的には肩の骨に付着する筋肉になります。腕を胸側にねじる、腕を前方に持ち上げる、腕を体幹(胴体)側に引き寄せるといったはたらきをします。
■上腕三頭筋|Triceps
上腕三頭筋は、その名前にもあるように3つの筋肉のかたまりがひとつにまとまって走行しています。二の腕の後ろにあります。肩甲骨と腕の骨からはじまり、最終的に肘の関節の下に付着します。おもなはたらきは肘を伸ばす動作です。
▼スクワットでは太ももとお尻の筋肉がメイン
スクワットは、バーベルを担いだ状態で屈伸運動をくり返す運動です。太ももの筋肉とお尻の筋肉への刺激がメインとなります。太ももは全体的に刺激が加わりますが、前面にかかる刺激の方が大きいのが特長です。スクワットにより刺激される代表的な筋肉は大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、ハムストリングス、大臀筋(だいでんきん)となります。
■大腿四頭筋|Quadriceps
大腿四頭筋は太もも前面の筋肉です。4つの筋肉のかたまりがひとつにまとめって、膝の関節の下に付着します。太ももからはじまる筋肉や骨盤からはじまる筋肉があります。股関節をまげるはたらきもありますが、おもなはたらきは膝の関節を伸ばすという動作になります。
■ハムストリングス|Hamstrings
ハムストリングスは、太ももの裏側の筋肉です。太ももの裏にあるメインの筋肉は大腿二頭筋(だいたいにとうきん)、半腱様筋(はんけんようきん)、半膜様筋(はんまくようきん)といった筋肉があります。これらは一緒にはたらいて膝の関節を曲げるというはたらきがあることから、まとめてハムストリングスとよばれています。ちょっと変わった名前ですが、Ham(ハム)とStrings(ヒモ)という言葉に由来します。豚肉でハムを作るときに、この筋肉の腱をヒモ代わりにして吊るしてしたことからハムストリングスとよばれるようになりました。
■大臀筋|Gluteus maximus
人体のなかでも最大級の大きさといわれる筋肉です。お尻の表面を覆うのが大臀筋です。骨盤の後面から太ももの骨に付着しています。太ももを後ろに持ち上げる、太ももを外向きに回転させるというのがメインの動作になります。
▼デッドリフトでは背中とお尻、太ももの裏の筋肉がメイン
デッドリフトは床面においた重り(バーベル)を背中の筋肉を使って持ち上げる動作をくり返します。姿勢、動作のポイントを守らなければ腰に大きな負担をかけてしまうのでとくに注意が必要となる筋トレです。デッドリフトで鍛えられる筋肉は背骨を中心に付着する筋肉群(筋肉の集まり)である脊柱筋群(せきちゅうきんぐん)とすでにご紹介したハムストリングスと大臀筋です。ここでは脊柱筋群についてご紹介します。
■脊柱筋群|Spine muscles
背骨には小さな筋肉がたくさん付着しています。背骨のひとつひとつを支える筋肉などが複雑に走行しているからです。そのためまとめて脊柱筋群とよばれています。脊柱筋群は大きく脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)と多裂筋(たれつきん)にわけることができます。脊柱起立筋は背中の比較的浅いところにあります。背骨を支える、上半身の動作を安定させる、姿勢を維持する筋肉としていつも活動しつづけている筋肉です。背中を反らせるうごきがメインとなります。また背中のもっと深いところにある筋肉として多裂筋(たれつきん)という筋肉があります。背骨同士を直接つないでいる筋肉で、やはり背骨の安定性に深く関わっています。