┃等価交換「ギブアンドテイク」
ギブアンドテイクという言葉は、経済学、社会学、心理学、そして恋愛学などいろいろな分野で使われています。「等価交換(とうかこうかん)」という言葉で言い換えられます。読んで字のごとく、等しい価値を交換するということ。たとえば、「10000円の価値のあるスニーカーに対して、10000円を払う」といった市場原理は、ごく普通におこなわれています。
このようなギブアンドテイク(等価交換)という考え方が、恋愛関係のなかでもおこると考えるのが、いわゆる恋愛におけるギブアンドテイクの理論ということになります。
物々交換以外にも、人と関わればギブアンドテイクの理論を感じさせるシーンはたくさんあります。
「〇〇だけやったから、〇〇だけお金をもらう」
「●●くらいしか仕事してないから、給料は●●くらい」
「△△やったから、△△やって」
「わたしは■■までやったから、あなたは■■までやって」
こんな会話は、男女関係においても日常茶飯時のやりとりです。そもそも経済市場でこのギブアンドテイクの理論がはたらいていれば、それが恋愛市場でもおこっていると考えても違和感はありません。
※参考文献
*稲原泰平:国際法上の等価交換則の顕在化, 金沢星稜大学論集第43巻第2号, p1~11, 2009(http://www.seiryo-u.ac.jp/u/education/gakkai/e_ronsyu_pdf/No113/p001_012_inahara.pdf)
*永田聖二:等価交換とワルラス, 長崎大学教育学部社会科学論叢64, p25~40, 2004(http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10069/6261/1/KJ00004125768.pdf)
┃ギブアンドテイクの理論を恋愛市場に当てはめる
「恋愛」をひとつの市場と考えて、ギブアンドテイクの理論を当てはめてみます。人をひとつの商品と仮定してみます。すると「愛する・愛される」というのは、商品の売買と同じシステムだと考えることができます。恋愛や結婚は、お互いを所有することなので、商品の売買と捉えても自然です(倫理的な問題はありますが、あくまで仮定です)。
そうなると、男性であっても、女性であっても「なるべく自分を高く売りたい」ですし、「なるべく相手を安く買いたい」という欲求が出てきます。その売り買いを考えるときの基準になるのが、男性・女性のそれぞれがもっている資産価値が重要になってきます。資産価値とは、たとえば、顔や体形などの外見、優しさや気配りなどの人間性、収入、社会的地位といったものをいいます。
一般の経済市場ならば、経済的に裕福な人は、より高く質の良い商品を買うことができるのと同じように、恋愛市場でも、資源をたくさんもっている魅力的な人ほど、より質の高い異性を獲得することができるということになります。ギブアンドテイクの理論が、恋愛市場でも成り立つという前提に立てば、
■魅力的な男性→魅力的な女性と結ばれる
■魅力的でない男性→魅力的でない女性と結ばれる
ということになります。高品質・高機能の商品はそれなりに高く、購入するには相応のお金が必要になることと同じことです。
┃恋愛均衡説
魅力的な男性には魅力的な女性が、それなりの男性にはそれなりの女性が、というのが恋愛市場のルール。だとすれば、男女の関係は等価交換、つまりギブアンドテイクの理論が成り立つというわけです。男女の関係は等価交換だという考え方は、「恋愛均衡説」ともよばれます。
「出会い」というものは、流動性の高い市場です。出会は偶発的におこるものなので、そのまま放っておけば「お互いの魅力度に応じて、だいたい釣り合うようになる」という原則が成り立つというのが恋愛均衡説の考え方です。
恋愛学のなかで、男女間の売買(相思相愛)は
■長期保有を原則とする「結婚市場」
■中期保有を原則とする「恋愛市場」
■短期保有を原則とする「浮気市場」
の3つの市場があるといわれています。
この3つの市場では、相手と関係をつくろうとする「買い」、つくった関係を維持しようとする「保有」、そして関係を解消する「売り」といった活動がおこなわれています。
そしてそれぞれの市場では、男性も女性も異性から求められる資質が違ってきます。たとえば、恋愛対象になる人と結婚対象になる人に求められる条件が必ずしも一致しないということです。
一般に保有期間が短いほど外見を重視する傾向が高いといわれます。浮気や恋愛という分野では、自分を売り込むマーケティング戦略が高く求められるということです。ちなみに、マーケティング戦略というのは、書籍やインターネットにも情報があると思いますが、「おまけ戦略」や「ダブルバインド」などは、よく知られています。
おまけ戦略というのは、「友達から映画のチケット2枚もらったんですけど、一緒にいく相手がいなくて…。よかったら一緒にいきませんか?」といった「おまけ」をつけて声をかけるというものです。
それに対して、ダブルバインドというのは、「二重拘束」を意味します。「一緒にお食事でもどうですか?」というと、相手は「Yes」か「No」で答えられます。ここで、「週末に一緒にドライブにいこうよ。土曜と日曜だったら都合のいいのはどっち?」と聞くこと。二者択一で聞いて、「いかない」という選択肢を除外します。「Yes」か「No」で答えられないことを前提として、相手に選択肢を選ばせることになるので、普通にお願いをするより高い成功率を期待するものです。
┃恋愛均衡説は崩せる!?
自分の魅力に相応した異性に出会う原則があるなら、やはり自分を磨くしか方法がないという結論になります。しかし、やっぱり素敵な女性と結ばれたいというのは贅沢なことでしょうか。早稲田大学の森川教授の著書「なぜ日本にはいい男がいないのか21の理由(ディスカヴァー, 2007)」のなかで、恋愛均衡説ならぬ恋愛不均衡説を発見するヒントをみつけることができます。
森川教授は、著書のなかで自分の(1)魅力度をあげること、(2)閉じられた環境に身を置くことで、魅力的な異性を獲得できる可能性があるといいます。
これはどういうことでしょうか。
まず(1)の「魅力度をあげる」からみていきます。「人の魅力とは何か」、これを一言で表現するのは難しいです。外見、人間性、収入、社会的地位、声、学歴、趣味etc…数え出せばきりがないからです。ただこれらを総合して数値化するようなものもあります。インターネットでも「男女 魅力度 チェック」と検索すると計算ツールがたくさんあります。この魅力度をUPさせて高い魅力度をもつ女性に近づき、魅力的な女性と結ばれる。その努力が必要ということになります。これはこれで納得できます。
もうひとつ(2)「閉じられた環境に身を置く」はとても興味深いものがあります。これは、女性ばかりの多い環境にいると、自分より魅力的な女性と結ばれる確率が高くなるというもの。たとえば、女子校の男性教員、保育園・幼稚園など女性が多い職場ではたらく男性、看護学部・家政学部など女子中心の学部にいる男子学生は、恋愛均衡説が崩れるといいます。
逆に女性の場合も、理工学部にいる女子大生、男性中心の部活やサークルに所属する女子大生は、自分の魅力度以上の男性と付き合う可能性が高いということです。