┃愛は3つの要素から構成される
漠然とした「愛」というイメージをもっと具体的にみる手法として「愛の三角理論」という考え方があります。アメリカの心理学者スタンバーグ(Stemberg)という人が考案した方法です。スタンバーグは、「愛は、『親密性』、『情熱』、『コミットメント』3つの要素からなる。」と考えました。
「3つの基本要素の組み合わせで、愛は8つの愛のカタチになってみえてくる。」
これがスタンバーグの考え方です。つまり、その人の愛の捉え方や恋愛パターンは、この8つのどれかに当てはまるということを意味します。
心理学や恋愛心理学の分野では、よく登場する有名な考え方で、「スタンバーグの愛の三角理論」とよばれています。
世のなかには、いろんなカップルがいるもの。ラブ・ストーリー系の映画に出てくる男女のように「情熱的」に愛し合っているカップルもいれば、まるでお互いに関心がないような「ちょっと冷めた」印象を受けてしまうカップルもいます。「彼女(彼氏)なしの人生はありえない!」、「気がついたら数年も付き合っている…」、「彼女(彼氏)を好きな理由?考えたことないけど、一緒に居るのが自然になっている」etc…。
好きの度合いはさまざまですが、少なくともそこには「愛」があるはずです。でも、愛とか愛情という言葉は、あまりに抽象的で漠然としています。漠然としていては、好きな女性の愛の考え方や恋愛のパターンはわかりません。それをもっと手にとるように知る方法。それが「愛の三角理論」というわけです。
▼親密性(intimacy)
親密性という感覚は、親しみの程度を意味します。
「相手に対して親しみがある」
「その人と一緒にいると幸せを感じる」
「相手とつながっている感じがする」
一緒にいるとき、のんびり・ゆったりとした感覚がもてるようなイメージです。ワクワク、ドキドキというよりも、「落ちつき」という表現がしっくりくるような愛情のことをいいます。
恋愛が長つづきしない人やカップルは、親密性が低い傾向があります。長期の関係をつくるのに必要なのが親密性です。長続きする愛に必要な要素、それが「親密性」ということになります。
▼情熱 (passion)
情熱は、性的な欲求、相手と一緒にいたいという熱烈な気持ちのこと。その言葉の通り、燃えるような感情、ワクワクしたり、ドキドキしたり、相手を独占したいという熱烈な感情を抱いている状態です。
「いつも相手のことを考えている」、「その人のためなら命も惜しまない」といった映画のワンシーンに出てくるような強烈な愛情は、情熱が優位にはたらいています。
▼コミットメント(commitment)
コミットメントは、日本語にすると「献身的」と表現されたりします。相手に対する責任や義務の度合いのこと。相手に対する「責任感」、「身をささげる覚悟」ということもできます。
コミットメントは知的さ、冷静さをもった感情でもあります。情熱さや親密性と比べると、やや冷めた部分があります。基本的には、親密性も情熱もなく、コミットメントだけの愛というのは成立しにくいものです(長く一緒にいれば、親密性や情熱が出てくるケースもありはしますが)。
「とくに親しくもなく、燃えるような愛は感じない、けど(習慣や風習にそうするものだから)結婚しよう」と決めてしまうような場合は、コミットメント優位。いわゆる「政略結婚」は、コミットメントの要素がつよい結婚(恋愛)パターンといえます。
※参考文献
*高坂康雅:青年期における恋愛様相モデルの構築, 和光大学現代人間学部紀要第4号, 79~89, 2011(https://www.wako.ac.jp/_static/page/university/images/_2011-0625-1157.0643c80e27981872ce5830bbbc20d11a.pdf)
*金政祐司・大坊郁夫:愛情の三角理論における3つの要素と親密な異性関係, 感情心理学研究第10巻第1号, p11~24, 2003(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre1993/10/1/10_1_11/_pdf)
┃構成される要素からわかる8つのラブ・パターン
スタンバーグが考え出した愛の三角理論では、「親密性」、「情熱」、「コミットメント」のそれぞれに対応した質問に答えていきます(質問項目については後述します)。その質問に答えて、「親密性」、「情熱」、「コミットメント」の3つに点数をつけていきます。
点数をつけたら、その3つを下のフォーマットに印をつけて、その印を線で結びます。
※資料:Robert J. Steinberg:A Triangular Theory of Love, Psychological Review, Vol. 93, No.2, p119~135, 1986(http://pzacad.pitzer.edu/~dmoore/psych199/1986_sternberg_trianglelove.pdf)・Robert J. Steinberg:Love as a Story, Journal of Social and Personal Relationships, Vol.12, No.2, p541~546, 1995・斎藤勇:イラストレート恋愛心理学, 誠信書店, 2006より作成
もし、「親密性」、「情熱」、「コミットメント」のバランスがとれていれば、きれいな三角形を描くはずです。描けた図形はどんな形から、8つの愛のカタチをみていきます。そのカタチを示しているのが下の分類図です。
※資料:Robert J. Steinberg:A Triangular Theory of Love, Psychological Review, Vol. 93, No.2, p119~135, 1986(http://pzacad.pitzer.edu/~dmoore/psych199/1986_sternberg_trianglelove.pdf)・Robert J. Steinberg:Love as a Story, Journal of Social and Personal Relationships, Vol.12, No.2, p541~546, 1995・斎藤勇:イラストレート恋愛心理学, 誠信書店, 2006より作成
愛の三角理論がおもしろくなるのは、ここからです。描いた三角形のカタチをみることで、自分が相手に対して抱く「愛のカタチ(その人の恋愛パターンといってもOK)」を視覚的にみることができます。
つまり、自分が好きな女性は、この8つのパターンのどれかに当てはまっているということです。
そして、女性を好きになったとき
■「その女性がもっている愛のカタチを知って、それに合わせる」
or
■「足りない要素を補ってあげる」
という接し方をすると、相手が好意を返してくれる可能性が高くなります。上の図を参考にしながら、それぞれのタイプをみていきます。
▼①好意・友だち|友だちに対して抱く感情と似ている
親密性が、ほかの要素よりも極端に多い場合は、三角形の上方向に伸びるカタチを描きます。親密性は、2人の関係が長つづきするためには、欠かせない要素です。でも異性というよりは、何でも相談できる親しい友だちとして相手をみています。
パートナーとしては満足しているけれど、「異性としての刺激はちょっと不足」と感じている可能性もあります。
このタイプに当てはまる女性には、焦らず、急がず、気軽な友だちとしてアプローチすれば、いい結果が出る可能性が高くなります。
▼②友愛|友だちの延長線上にある愛
友愛という言葉はあまり聞きなれないかもしれません。長期的な関係をもつカップル、夫婦や親友にみられるような愛が「友愛」です。単なる友だちではなく、心を開いて、何でも相談できる普通の友だち以上の親友のような深い思いです。
このタイプに当てはまる女性には、一夜だけの関係なんて期待してはいけません。長期的に付き合って深い親しみ・信頼を育てることを望んでいます。
▼③虚ろな愛|だらだらとした長い愛
コミットメントがとくに突出している場合は、付き合いだけが長い愛を意味します。相手に対して、親密性や情熱という感情は低く、やや冷めた印象があります。このタイプの愛のカタチは、衝突を避ける傾向があり、大きなトラブルがないものの、相手に対する思いは、やや淡白なもの。長期的な関係がつづいたあとの、最終段階でみられるような愛です。
虚ろな愛の傾向がある女性は、心を開いてくれるまでに時間がかかりそう。情熱と親密性の要素がたりないので、優しい言葉をかけたり、相談にのったりして「親密性」の要素を取り入れるようにします。ときにはロマンティックな情熱的要素をトッピング。サプライズのプレゼントなどでドキドキ・ワクワク感を演出してみましょう。
▼④一方通行の愛|不安定な愛のカタチ
情熱とコミットメントが高く親密性が低い場合は、「一方通行の愛」といわれる愛のカタチです。これは束の間(つかのま)の愛ともいわれ、安定性のない愛です。相手に対して情熱や、付き合っている女性なら、恋人に対して「彼氏」としての感情はあっても、親しみや信頼性に欠けるので安定していません。
このタイプの愛のカタチのキーワードは「不安定」です。別れそうになったり、よりを戻したりをくり返す傾向があります。
不安定になるのは親密性が不足しているからです。このタイプの女性にアプローチするなら、ポイントは、「親しみ」、「つながっている感じ」、「優しさ」です。女性が悩んでいるときには、よい相談相手になってあげたり、頼れる友だちになるスタンスで接するとGoodです。
▼⑤のぼせ(心酔)|いわゆる一目惚れ
情熱ばかりが優先している愛です。一夜限りの関係とか、一目惚れするような、ドキドキ感、ワクワク感のある刺激的な愛のカタチです。長期的につづくと少しずつ情熱の感情が落ちつくパターンが多いので、恋愛の初期の段階によくみられる愛のカタチといわれています。
情熱は、熱するのも強烈ですが、冷めると一気に冷める可能性があります。夜のバーなどで声をかけてみると、盛り上がってくれそうな期待感があるのは、このタイプの可能性があります。
▼⑥ロマンティックな愛|恋人同士にみられる愛のカタチ
親密性と情熱で支えられているのが「ロマンティックな愛」です。相手に身体的な魅力を感じるだけではなく、感情的にもつよい結びつきを感じる愛のカタチです。恋愛中(付き合いたてではないけれど、長期につづいているともいえない微妙な期間)の相手に対して抱く愛は、このタイプが多いといわれます。
親密性と情熱を「愛」と考えている女性だけに、焦って距離を近づけようとしないことがポイント。同時に情熱の要素があるので「ロマンティックな演出(サプライズのプレゼントや夜景付きのデートなど)」もプラスすると急展開も期待できます。
▼⑦完全愛|3つの要素が完璧な状態
「三角形の大きさ=愛の大きさ」をあらわしています。三角形の大きさが、小さい場合と大きい場合があります。この大きさは、そのまま愛の量をあらわします。三角形の面積が大きければ大きいほど、2人の愛は大きいということになります。
一度関係をつくれたら、次に目指すべきは「完全愛」といわれる愛のカタチです。「親密性」、「情熱」、「コミットメント」3つの要素のバランスがとれた状態(正三角形に近い状態)で、理想的な愛のカタチになります。
▼⑧愛がない状態|3つの要素が0(ゼロ)
完全愛とは真逆の状態で、非愛(ひあい)ともいいます。「親密性」、「情熱」、「コミットメント」の3つの要素が0点であれば、そこには何もない。つまり、愛がないということです。
男性も女性もすべての愛のカタチは、上の8つのパターンにあてはまると考えるのが、愛の三角理論です。
※参考文献
*河野和明・羽成隆司:「惚れっぽい」人の配偶者選好み, 日心第70回大会資料, 2006(http://www.psych.or.jp/meeting/proceedings/70/poster/pdf/3pm142.pdf)
*片岡祥・園田直子:恋愛関係が青年の発達に及ぼす影響―多次元自我同一性尺度と恋人の有無・交際期間・愛情との関連から―, 久留米大学心理学研究第10号, 2011(https://www.kurume-u.ac.jp/uploaded/attachment/2405.pdf)
*Robert J. Steinberg:A Triangular Theory of Love, Psychological Review, Vol. 93, No.2, p119~135, 1986(http://pzacad.pitzer.edu/~dmoore/psych199/1986_sternberg_trianglelove.pdf)
*Robert J. Steinberg:Love as a Story, Journal of Social and Personal Relationships, Vol.12, No.2, p541~546, 1995
*斎藤勇:イラストレート恋愛心理学, 誠信書店, 2006