┃有酸素運動=燃焼系|無酸素運動=代謝UP
ダイエットに筋トレを利用する理由が推奨される理由は、有酸素運動と無酸素運動の2つの運動タイプの役割が違うからです。
ダイエットに関していえば、有酸素運動は脂肪を燃やすための運動です。それに対して無酸素運動は脂肪を効率よく燃やすために筋肉量を増やすのが目的になります。
運動のタイプは有酸素運動と無酸素運動の2つに分けられます。効率よくダイエットしたいと思えば有酸素運動と無酸素運動の特徴を知って、2つとも自分のトレーニング計画に取り入れるのがポイントです。
有酸素運動と無酸素運動は相反するエクサイズですが、2つの運動をうまく組み合わせると、どちらか1つのエクササイズに偏るよりもダイエット効果が高まります。
まずは有酸素運動と無酸素運動の特徴をみてみましょう。
▼有酸素運動|Aerobic exercise
有酸素運動はアスリートであれば心肺機能のレベルアップを目的にしますが、ダイエットとなると注目すべきは脂肪を燃やす脂肪・燃焼系のはたらきです。
有酸素運動では運動のエネルギー源に糖分や脂肪を使いますが、そのとき酸素をたくさん使いながら筋肉を動かします。身体が糖分や脂肪を酸素と反応させるときに酸素を使います。酸素を使って長い時間運動ができるので、その分だけ脂肪が燃焼します。
有酸素運動は例えばウォーキングや自転車、ランニング、水泳、エアロビクスなどの運動があります。胸・背中・太ももといった大きな筋肉を使って、持続的でリズミカルな運動が有酸素運動です。
▼無酸素運動|Anaerobics
無酸素運動の代表といえば筋トレです。筋トレ器具・マシーンを使って鍛えたい筋肉をストレートに刺激します。無酸素運動は短い時間で大きな力を使う運動です。
無酸素運動は運動のエネルギー源に糖分を使いますが、酸素をあまり使わずにエネルギーを作り出します。その分だけ筋肉に送られる酸素も不足します。
無酸素運動のエクササイズは8秒〜30秒くらいしか持続できません。陸上でいう短距離走が無酸素運動です。
無酸素運動は脂肪を燃焼させる運動としては不向きですが、筋肉を刺激して発達させるのに向いています。
脂肪を燃やす効果が有酸素運動より劣るのに、ダイエットに無酸素運動を取り入れるメリットがあるのか気になる人もいるでしょう。
無酸素運動がダイエットに適しているといわれるのは、身体の代謝量を高めるからです。代謝というのは体内でおこる化学変化をいいます。ダイエットとの関わりでは栄養分を分解してエネルギーを使うプロセスが代謝です。
無酸素運動の代表例といえば筋トレです。筋トレすると筋肉が発達します。筋肉の代謝量は身体の組織のなかでも代謝量が高く、脂肪と比べると5倍以上です。5倍以上エネルギーを使うというわけです。「筋肉量を増やすと太りにくくなる」といわれるのは、筋肉の代謝量が高いからです。
※資料:糸川嘉則ほか「栄養学総論 改定第3版」南江堂, p141~164, 2006をもとに作成しています。
参考文献
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2005年度版」第一出版, p28~38, 2005
※糸川嘉則ほか「栄養学総論 改定第3版」南江堂, p141~164, 2006
※Roberts SB et al「Energy requirements and aging」Public Health Nutr,8, p1028~36, 2005
┃有酸素運動だけで脂肪を減らすのが大変なワケ
ダイエットの基本は筋肉量をキープしながら余分な脂肪を落とすことです。脂肪を燃やすという点にフォーカスすると、有酸素運動が効率的だと考えがちです。
しかし有酸素運動だけで脂肪を落とすのは実はかなり大変です。有酸素運動のエネルギー消費量は高いとはいえません。
消費カロリーの計算はいろいろな方法がありますが、「METs(メッツ)」という指標を利用して計算するのが一般的です。METsは「代謝量」という意味です。
METsの使い方は簡単です。METs表とよばれる一覧表があり、一覧表にスポーツや日常生活の動作、簡単なエクササイズなどで一定の値が決められています。日本では国立健康・栄養研究所「改訂版 『身体活動のメッツ(METs)表』」(http://www.nibiohn.go.jp/files/2011mets.pdf)があるので、これを参考にすると便利です。
METsを使って消費カロリーを計算するときには以下の式を使って計算します。
『METs × 体重(kg)×時間×1.05=消費カロリー(kcal)』
ここでいくつかのエクササイズを例にして、男性(体重60kg)が運動した場合を計算してみます。
[1時間の軽いランニング(7.0METs)をした場合]
7.0(mets)×60(kg)×1(時間)×1.05=441(kcal)
[30分のヨガ(2.5METs)をした場合]
2.5(mets)×60(kg)×0.5(時間)×1.05=78.75(kcal)
[1時間の軽い水泳(5.3METs)をした場合]
5.3(mets)×60(kg)×1(時間)×1.05=333.9(kcal)
上記の有酸素運動のなかでランニングは消費カロリーが441(kcal)です。これはコンビニのおにぎり約2個分ほどです。ビールだとレギュラー缶(350ml)で約140~180(kcal)、菓子パンなどは1個400(kcal)以上のものもあります。
こうしてみると有酸素運動の消費カロリーは普段の食事のなかで、すぐに摂取してしまう程度のカロリーだとわかります。
脂肪1kgが持っているエネルギーは約7200(kcal)です。脂肪1kgをランニングで減らそうと思えば、16時間のランニングが必要です。
実施祭は走った後に食べたり飲んだりするので、必要なランニング時間はもっと長くなります。
有酸素運動で脂肪を燃焼するのはラクではないということです。
それでは無酸素運動を取り入れるとダイエット効果はどうなるのでしょうか。実は無酸素運動自体の消費カロリーも高くはありません。
無酸素運動をダイエットのメニューに取り入れる理由は、無酸素運動の消費カロリーではなく、別のメカニズムにあります。次項では無酸素運動が身体に与える効果についてみていきます。
┃無酸素運動の刺激がおこす身体変化
無酸素運動の筋トレがダイエットで着目されるのは、筋肉が発達して代謝量が高くなるからです。筋トレの消費カロリーが有酸素運動より優れて高いからではありません。消費カロリーだけで考えれば、有酸素運動の方が消費カロリーは高いです。
先ほどのMETsの式『METs × 体重(kg)×時間×1.05=消費カロリー(kcal)』を使って筋トレの消費カロリーをみてみます。
筋トレのMETsはボディビルダーがする本格的なトレーニングなら6.0METs、スクワットなどの一般的な筋トレならば5.0METsです。
体重60Kgの男性が一般的な筋トレ(5.0METs)を1時間した場合の消費カロリーは315(kcal)になります。1時間の軽いランニングよりも消費カロリーは低いです。
しかし筋トレ(無酸素運動)をすると身体にさまざまな変化がおこり、この変化がダイエットの効率を高めてくれます。筋トレのような無酸素運動をすると、筋肉内で乳酸などの疲労物質が蓄積します。
そして筋肉内にある化学物質を感知する受容器(「侵害受容器」とよばれています)が刺激されます。この受容器が筋トレの刺激や疲労物質を受けて、その信号を脳に伝えます。すると脳から「成長ホルモン」というホルモンが分泌されます。
成長ホルモンは、骨や筋肉に作用してその発達を促したり、筋肉の疲労・損傷の回復を促す物質です。
さらに筋トレの刺激が脂肪の細胞に作用して、脂肪の分解を促すこともわかっています。筋トレなどの無酸素運動はトレーニング自体の消費カロリーが高いのではなく、トレーニングによって体脂肪が燃えやすい状態をつくる意味でダイエット効率を高めてくれるというわけです。
筋トレのダイエット効果は以下の2つにまとめられます。
①筋トレは代謝量の高い筋肉の量を増やす→脂肪が燃えやすい身体になる
②筋トレ刺激が脂肪の細胞を刺激して脂肪の分解が盛んになる
ちなみに筋トレの直後から代謝はあがります。筋トレ後に代謝が高くなっている状態は約48時間続くといわれます。筋トレを終えた次の日もカロリーを消費しやすい状態が続いているというわけです。
参考文献
※一般社団法人京都府医師会「健康パネル2010年11月08日版・生活習慣」
※山本哲史・山崎元「運動処方の最近の考え方」慶應義塾大学スポーツ医学研究センター紀要, p33~39, 1999
※堀内雅弘「筋力トレーニングと血管機能」北海道大学大学院教育学研究紀要 第125号, p63~75, 2016※森谷敏夫「生活習慣病と予備軍に対する 筋力トレーニングを含めた運動療法について」NSCAジャパン第6回総会資料, Volume13, Number8, p56~59, 2006