┃相対筋力を高める筋トレ
自重トレーニングとウエイトトレーニングのうち「どちらが優れた筋トレ法か」との比較は筋トレする目的によって捉え方が違います。
筋力には「相対的な筋力」と「絶対的な筋力」の2つの考え方があります。
▼「相対的な筋力」と「絶対的な筋力」の意味
自重トレーニングは「相対的な筋力」を高める意味で優れた筋トレです。相対的な筋力は最大挙上重量÷体重で表現されるもの。自分の体重に対してどれだけの筋力があるかをみる指標です。
それに対して「絶対的な筋力」とは筋肉の断面積あたりの筋力のことです。ただしトレーニングやスポーツの分野では「単に何キロの重量をもち上げられるか」の意味で使われる場合もあります。
体重が重い人と体重が軽い人を比べた場合、体重が重い人の方が筋肉量が多いので体重が重い人の方が絶対的な筋力が高くなる傾向があります。
しかし個人の体重あたりの最大挙上重量(相対的な筋力)をみると体重が軽い人の方が筋力が高くなるケースがあります。
絶対的な筋力に注目するとウエイトトレーニングの方が自重トレーニングより優れているというのが通説です。
ただしスポーツの競技能力アップや普段の生活の範囲で筋トレするのであれば、体重に応じた相対的な筋力に注目する方が実践的です。
たとえば日常生活のなかで極端に重いものをもち上げる機会は少ないですが、身体の移動は必須です。
身体をうごかすには体重移動のコントロールが必要で、体重移動のとき自分の身体が負荷になります。自分の体重を自在に操る力は相対筋力に依存します。
スポーツでも相対筋力が高ければ「スピード」「キレ」といった身体の移動能力につながります。
アスリートの強化メニューでも筋力アップを目的にしたウエイトトレーニングと同じく、相対的な筋力とスタミナの強化、動作能力アップを目的に自重を用いてトレーニングが採用されています。
参考文献
※市橋則明「筋力トレーニングの基礎知識―筋力に影響する要因と筋力増加のメカニズム―」京都大学医療技術短期大学部紀要別冊, 健康人間学9, p33~39, 1997
※増永智彬「自重負荷による軽レジスタンス運動と有酸素運動の 実施順序の違いが脂質酸化に及ぼす影響」早稲田大学スポーツ科学部(http://www.waseda.jp/sports/supoka/research/sotsuron2013/1K10C391.pdf)
┃細マッチョを目指すなら有酸素運動と併用すれば◎
自重トレーニングは筋トレでシャープな体型、いわゆる「細マッチョ」を目指す人にとって適した筋トレです。
自重トレーニングに加えてジョギングや水泳、ウォーキングといった有酸素運動を組み合わせると、さらに効果が期待できます。
筋肉の線維は収縮速度や生理機能の違いによって「遅筋」と「速筋」に分けられます(遅筋と速筋の混合した混合筋を含めて分類する場合もあります)。
遅筋は酸素の利用効率に優れていて疲労しにくい筋線維です。そして筋繊維が細いという特徴があります。
対して速筋は収縮速度が速く瞬発的なパワーに優れた筋繊維です。速筋は筋繊維が太いのが特徴です。
軽い負荷量の運動で持続的に筋肉を刺激する運動は遅筋を刺激するといわれています。
遅筋と速筋の割合は遺伝的に決まっていて「遅筋から速筋へ」「速筋から遅筋へ」と筋繊維の変化はないといわれていました。
しかし最近の研究では運動の種類や食事などで遅筋と速筋の間で変換がおこると報告されています。
マラソンランナーのような引き締まった体型を目標にするなら、自重トレーニングのような低負荷の筋トレに加えて、有酸素運動を組み合わせましょう。
参考文献
※上住聡芳・中谷直史・常陸圭介・土田邦博「老化や疾患における骨格筋の萎縮と治療への応用」基礎老化研究34(4), p5~11, 2010
※春日規克 ・石道峰典・鈴木英樹・幸篤武「タイプ移行した筋線維の特性」愛知教育大学研究報告59(芸術・保健体育・家政・技術科学・創作編), p.35~41, 2010
┃自重トレーニングのメリット&デメリット
自重トレーニングは利点もあれば欠点もあります。トレーニングのメリットとデメリットを知るのは、筋トレをプランニングするための前提知識です。
筋トレに注目したとき自重トレーニングの利点は以下の2点です。
①融通が利く(用具や器具、場所を選ばない)
②運動学の視点からみて機能的な筋トレ
自重トレーニングは用具や器具、場所を選ばず融通が利くのが利点です。スクワットや腕立て伏せなど自重トレーニングの多くは自分の身体ひとつあればOKです。
しかもジムに通う必要もないので経済的。筋トレに取り組む時間と労力を考えると、コストパフォーマンスに優れたトレーニングだといえます。
また自重トレーニングは運動学の視点からみて機能的な筋トレです。機能的とは人間の身体動作に近い動作パターンを意味します。
運動学の視点から身体の動作をみたとき、身体のうごきの多くは複数の関節と筋肉が強調してうごきます。
歩くときの下半身のうごきは股関節や膝関節、足関節が屈伸をくり返し、それに合わせて複数の筋肉がはたらいています。
ウエイトトレーニングは上級者になるほど1つの関節をうごかす動作が増えます。たとえばダンベルカールは肘関節のみ、レッグエクステンションでは膝関節のみを使ったトレーニングです(※)。
(※)自重トレーニングは機能的、ウエイトトレーニングは機能的でないとは断言できません。たとえばベンチプレスは肩と肘の関節がうごく複合動作です。一般にトレーニング種目全体をみたとき、自重トレーニングは複数の関節と筋肉をつかう種目が多いという意味で捉えられています。
自重トレーニングでは複数の関節と筋肉を同時につかう種目が多いのが特徴です。1つのトレーニングで複数の筋群を強化できます。
自重トレーニングの運動はCKC(閉鎖運動連鎖)という運動パターンです。CKCの「C」は「closed」の「C」で「閉じた」という意味です。
これは運動する身体の末端が固定された状態(閉じた状態)の運動をいいます。CKCの運動パターンは関節の安定性を高めたり、神経・筋の協調性UP、生活上のうごきの改善はCKCの運動パターンを応用したトレーニングが適しているといわれます。
自重トレーニングの動作の多くはCKCの運動パターン。手足の末端が床面に固定された状態です。
自重トレーニングはCKCの運動パターンで、しかも自分の体重を負荷の道具として使う運動です。体重移動するときの筋肉全体のはたらき、あるいは関節の安定性を高める効果が期待できます。
自重トレーニングが「日常生活レベルでの身体動作や、スポーツの競技パフォーマンス向上に適していると」されるのは、人体の自然な動作にあった筋トレだからです。
利点がある自重トレーニングには欠点があります。それは「高負荷の筋トレには不向き」という点です。
筋トレの上級者にとっては負荷が物足りないものとなります。自分の体重の数倍の負荷で筋トレできる人にとっては、自重トレーニングでは十分な負荷を感じるのは困難です。また絶対筋力を向上させたい人にとっても、満足できるトレーニングができません。
参考文献
※大橋俊介・野澤涼・石井慎一郎「OKCとCKCでの膝関節の副運動の変化について : 膝関節伸展運動に付随して起こる回旋運動に着目して」理学療法学34(Supplement_2), p436, 2007
※佐藤洋一郎「運動連鎖とエビデンス」理学療法の歩み22巻1号, p17~25,2011
※芳賀信彦「運動器のリハビリテーションの基本」京都リハビリテーション医学研究会会誌第2巻, p33~39, 2016