チンニング(懸垂)の効果と具体的なやり方について2回のシリーズで解説します。
筋トレはマシンやウエイトを使った方法に取り組む人もいますが、自分の体重と重力を負荷にした自重トレーニングもおすすめです。
場所や時間を選ばず、適切なやり方を身につけるとマシンやウエイトの筋トレに劣らない筋トレ効果が得られます。
とくにチンニング(懸垂)は背中の筋トレ種目として実践者が多い自重トレーニングのひとつ。
また、ボディーラインへの影響も大きい筋肉を刺激する筋トレです。
動作の要領を習得するまでは難易度がやや高めの筋トレ種目ですが、効果は抜群。
ここではチンニング(懸垂)で鍛える筋肉の確認とトレーニングの効果についてみていきます。
┃自重トレーニングの代表的な種目
チンニング(懸垂)は自分の体重を負荷量にする「自重トレーニング」の代表的な筋トレ種目です。自重トレーニングの種目はさまざまですが、数ある自重トレーニング種目のなかでチンニング(懸垂)は高い認知度を誇ります。
懸垂を代表とする自重トレーニングは、特別な道具をいっさい使わない自重トレーニングで筋トレの起源といってよいもの。古代ギリシャやローマ時代でも自重トレーニングは積極的に取り組まれていたといいます。
現在もトップアスリートや軍隊の公式トレーニングとして、自重トレーニングが取り入れられています。
今回のテーマはチンニング(懸垂)なので、自重トレーニングが「どれくらい優れた筋トレか」という点については詳しく触れません。
しかし自重トレーニングのメリットは知っておいて損のない知識なので、簡単にまとめておきます。

▼自重の筋トレは複数の筋肉を同時に鍛える
ダンベルやバーベルを使った「フリーウェイト」といわれる筋トレ、あるいはマシンを使った筋トレの多くは1つの関節を動かすトレーニングです。
それに対して自重トレーニングの多くは複数の関節を動かす動作が多いのが特徴です。
フリーウェイト・マシントレーニグと自重トレーニングでは、運動のパターンが違います。
多種類ある筋トレ種目を2つのグループに厳格に分けるのは難しいですが、自重トレーニングの多くは複数の関節を動かす動作が多く、複数の筋肉が同時にはたらきます。
たとえばダンベルを使って上腕二頭筋(二の腕)を鍛えるとき、肘関節だけが動きます。それに対して腕立て伏せでは肩関節と肘関節の2つの関節が動きます。
ただしベンチプレスなどもあるので実践場面では厳密に分けるのが難しい場合もあります。
ポイントは自重トレーニング=複数の筋肉を使う運動で、チンニング(懸垂)も複数の筋肉を同時に刺激する効率的な筋トレという点です。
▼実践場面に適した動作が多い
自重トレーニングはスポーツなどの実践場面に適したトレーニングです。筋トレはトレーニングする人の体格・筋力に個人差があるので、とくにトレーニングマシンとなると、すべての人の身体に合致するような運動機器を用意するのは難しいです。
しかし自重トレーニングは自分の筋力や体重、手足の長さやに合わせてトレーニングができます。自分の体格に見合った負荷の範囲で筋トレできる点では関節や筋肉への過度な負荷を避けて、無理のないトレーニングができます。
また生活やスポーツといった実践場面の多くも複数の関節と筋肉が強調する動作です。そのため自重トレーニングにより動作のパフォーマンス向上が期待できます。
▼いつでも、どこでも筋トレできる
自重トレーニングは用具や器具がいらないものがほとんど。腕立て伏せ、スクワット、あるいは腹筋の筋トレを例にしても「いつでも」「どこでも」できます。
筋トレに予算が限られている、あるいは施設に通う時間がないといった人でも気軽に、手軽にトレーニングできます。
チンニング(懸垂)は上記の自重トレーニングの利点を備えた筋トレのひとつです。自重トレーニングのなかでも、難易度はやや高めですが上半身の複数の筋肉を同時に鍛えられ、しかも特殊な筋トレ器具も不要です。
┃チンニング(懸垂)のターゲットは上半身の筋肉

チンニング(懸垂)で鍛える部位は背中全体。とくにメインになるターゲット筋は背中です(※やり方によっては胸部の筋トレもできますが、それについては「【チンニング(懸垂)でゲットする逆三角の美ボディー|②】チンニング(懸垂)のやり方・コツ」で解説します)。
チンニング(懸垂)コンパウンド種目のひとつ。1回の動作に複数の関節・筋肉がはたらく複合的なトレーニングです。
チンニング(懸垂)で使う主な筋肉は「広背筋」「僧帽筋」「大円筋」です。動作を補助するために「上腕二頭筋」「腕橈骨筋」などの腕の筋肉もはたらきます。
チンニング(懸垂)で鍛えられる「広背筋」「僧帽筋」は、身体の表層にある筋肉なので、「広背筋」「僧帽筋」が発達している場合は外見上でも確認できます。「広背筋」「僧帽筋」ボディーラインに直接関わる筋肉です。
参考文献
※岡西哲夫「筋力改善のための運動学習に関する検討」名古屋学院大学論集 医学・健康科学・スポーツ科学篇 第3巻 第1号, p41~50, 2014
※内田貴洋・相馬俊雄「等尺性膝関節屈曲運動における大腿四頭筋の運動制御」理学療法科学32(1), p51~55, 2017
┃背中のラインが美しくシャープに!|チンニング(懸垂)で鍛える筋肉は逆三角形のキーマッスル
チンニング(懸垂)がターゲットにするのは広背筋・僧帽筋・大円筋です。広背筋がトレーニングされている人は、背中の上部から腰にかけてのボディーラインが逆三角形になります。

僧帽筋が鍛えられると背中に厚みが出ます。美しく整った背筋や肩こりとも関連ある筋肉といわれますが、ボディーラインへの効果からみると「首〜背中」にかけて「八の字」状を描く点が魅力です。
大円筋は広背筋や僧帽筋と比べると小さな筋肉です。筋肉の大きさは小さいですが、大円筋がトレーニングできていると、背中からみた逆三角形のフォルムが立体的でキレのあるラインを描きます。
大円筋は広背筋のはたらきを補助する筋肉なので、しっかり広背筋の筋トレができていれば、大円筋も少しずつ発達します。
チンニング(懸垂)のように複数の関節・筋肉が動くトレーニングであれば、大円筋にも適切な負荷がかかります。
┃ダイエットにも期待|背中の大きな筋肉を鍛えれば代謝量UP

背中の筋肉を鍛えるチンニング(懸垂)はダイエットにもプラスの効果が期待できます。
筋トレの目的がダイエットだという人もいるでしょう。ダイエットの基本は食事による摂取カロリーと運動による消費カロリーのバランスです。
カロリー消費を高めるためには筋肉量を増やすのがダイエット効率がアップします。
身体のなかで代謝量がもっとも高い組織が筋肉。筋肉の代謝量は脂肪と比べると3倍高くなります(1日・体重1kgあたり)。
理論的には筋トレで脂肪が減って筋肉が増えれば、その分だけ身体は今よりも3倍「エネルギーを消費しやすい」ことになります。
筋肉を減らさないダイエットが大事だといわれるのは、筋肉が高い代謝量をもつからです。
また、ダイエット目的で筋トレするなら筋肉量の小さな筋肉を鍛えるより、筋肉量の大きな筋肉を鍛える方が効率的。筋肉の大きな筋肉群を鍛えるとエネルギー消費量を効率的に高められます。
広背筋や僧帽筋は身体のなかでも「大筋群」に含まれる筋肉で、これは筋肉量が大きいことを意味します。
▼背中にある褐色脂肪細胞がダイエット効果をアップさせる!
近年の研究で「首まわり〜肩甲骨付近に集中的に褐色脂肪細胞が存在する」という報告があります(注1)。さらに運動は褐色脂肪細胞を増やすという報告もあります(注2)。
褐色脂肪細胞とは脂肪を貯める脂肪細胞のなかでも脂肪を「減らす」はたらきをもつ細胞です。褐色脂肪細胞は脂肪を分解して熱をつくり、体温の調節などをします。
脂肪細胞には「白色脂肪細胞」と「褐色脂肪細胞」の2種類があって、2つの細胞はそれぞれ違う役割があります。
いわゆる「脂肪」とよばれるものは白色脂肪細胞です。使いきれなかった体内の余分なカロリーを貯めるので、肥満の原因になると考えられています。
最近まで褐色脂肪細胞は乳児期にみられる細胞で「成人では減少する」と考えられていました。
しかし首まわり〜肩甲骨付近に褐色脂肪細胞が存在していて、運動による刺激は褐色細胞を刺激するともいわれます。
広背筋や僧帽筋をダイレクトに刺激するチンニング(懸垂)には、ダイエットにもプラスの効果が期待できます。
※筋トレとダイエットについては下記の関連記事が参考になります。
関連記事
・「筋トレダイエットは理論で攻める!【基礎編その1|成功者は知っている効率UPの秘策】」
・「筋トレダイエットは理論で攻める!【基礎編その2|効果が実感できるまでの期間はどのくらいか】」
・「筋トレダイエットは理論で攻める!【実践編|筋トレメニュー・食事の組み方・取り組み方】」
出典
注1:大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所・京都大学 企画 情報部広報課 広報企画掛・国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 広報「褐色脂肪細胞においてエネルギー消費を促す新たなメカニズムを発見––からだの熱産生に褐色脂肪細胞のTRPV2チャネルが関与––」(http://www.nips.ac.jp/release/2016/02/_trpv2.html)
注2:大野秀樹ほか「運動による白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞への分化とその調節機構」杏林医学会雑誌43巻3号, p41~45, 2012
┃チンニング(懸垂)の付加価値とは|ほかの筋トレと差別化できるポイント

広背筋や僧帽筋を鍛える方法はチンニング(懸垂)以外にもたくさんあります。
チンニング(懸垂)とほかの背中の筋トレの差別化するポイントは刺激の入り方。
チンニング(懸垂)は広背筋や僧帽筋にダイレクトに刺激が入りやすいのが特徴です。
たとえばチンニング(懸垂)と似た筋トレ種目にラットプルダウンがあります。
ラットプルダウンは座った状態で重量つきのバーを自分の身体に引き寄せる筋トレマシンを使った運動です。
身体をもち上げるチンニング(懸垂)とは逆の動きですが、刺激する筋肉は同じです。
ただしラットプルダウンのマシンには、浮き上がったりお尻がもち上がってしまう場合があります。身体の浮き上がりを防ぐために、太ももを強制的におさえるパッドを使う人もいます。
しかし、パッドで身体の動きを強制的に押さえつけてしまうと、重量を引き寄せるときに腹筋や脚の筋肉を無意識に使ってしまいがち。いわゆる代償動作というものです。
代償動作をダンベルカール(ダンベルをもって肘を曲げ伸ばしする二の腕の筋トレ)で例えると、本来は肘の曲げ伸ばしをして二の腕の筋肉鍛えるのがダンベルカールです。
ここに頭や背中、腰を反らせて肘の曲げ伸ばしをすると、ダンベルカールの目的が達成できません。頭や背中、腰を反らせてしまうのが代償動作です。
代償動作は重量が重すぎるか、フォームの練習不足、もしくは痛みなどがある場合におこります。ダンベルカールで鍛えるべき筋肉に適切に刺激が加わっていない状態です。
ラットプルダウンでも同じように代償動作がおこる可能性があります。それに比べて、チンニング(懸垂)は強制的に身体を固定するものがなく、脚や腹筋の力が加わりにくい運動です。
チンニング(懸垂)は広背筋や僧帽筋の筋トレとして効果&効率に優れた筋トレ種目といえます。
参考文献
※磨井祥夫・桜井佳世「斜め懸垂の力学モデル」広島大学総合科学部紀要VI 保健体育学研究 6巻, p25~32, 1989
※磨井祥夫・小松佳世「斜め懸垂の力学モデル」日本体育学会大会号(33), p553, 1982
※河村洋二郎・藤本順三・仲至誠「懸垂運動の筋電図学的研究」体力科學6(6), p213~219, 1957